TOP > DATA > ライナーノーツ > Are A Drag

 ギミギミズのデビューアルバム、「Have A Ball」では、彼らの研ぎ澄まされた音楽の力が、70年代の錆びれることない旋律を、90年代の若者の歌を奮い立たせるような畏敬の念に変えることとなった。 2ndフルレングス、「Are A Drag」が発売されたが、彼らはさらに自分たちの思うがまま演奏を操っている。 今回The Fab Five*1 は、もはや誰にも真似できないスタイルで、みんなから人気のある歴代ブロードウェイの名作達を一つの作品にまとめリリースした。 彼らは最新の流行と考えられるものすべてにおいて、相変わらず切り札的存在となっている。 彼らはプレイボーイという単語の定義どおりの、世界中で愛されている野郎たちなのだ。 祖先であるRat Pack*2 そっくりの悪名高きFat Packは、公園のベンチより多くのケツを経験しているといった噂を言うまでもなく、突拍子もないその退廃的な振る舞いで知られている。 そして、音楽業界の名ばかりのお偉いさんたちの機嫌をうかがってきた人々の中には、未だ本当のギミギミズを知るものはほとんどいない。 アルバムリリース間の短い中断の理由は? 個々のあきれた振る舞いの理由は? 一体全体どうして彼らが70年代のヒット曲をやめて、ブロードウェイのヒット曲を選択したのか?

 現在までに、ギミギミズが流星のごとくスターダムへと登りつめたことはみなさんご存知であろう。 確かに、ソールドアウトのショー、スターだらけのオールナイトなお祭り騒ぎ、いつ終わるとも知れない酒宴などといったことが、すぐさま普通のこととなったが、その結果、薄く壊れやすい覆いが悲しみを内側に包みこんでしまった。 この5人組はNOFX、Lagwagon、Swingin' Utters、No Use For A Nameといった平凡なバンド名を持つ信用できないパンクロックグループの中に、それぞれその慰めを得ようとした。 彼らの音楽的渇望を満たそうとするこの生半可な試みが失敗に終わったことは、何の驚きでもない。 彼らのサイドプロジェクトバンドはすぐにうまくいかなくなり、いつしか忘れ去られていた。 その後すぐ、無数の誇張されたスキャンダルがギミギミズに降りかかり、下り坂を転げ落ち続けることとなる。 ギタリストのジョーイ・ケイプは、数ヶ月間酒におぼれまくってだらしのない酔っ払いのようになり、「Joseph and the Amazing Technicolor Dreamcoat」*3 の午後の公演では卑猥な言葉をわめき散らしていた。 ドラマーのデイヴ(彼の姓は「Arthur C. Clarke's Mysterious World」*4 の次回エピソードで調査されるでしょう)は、全員白人バージョンの「The Wiz」*5 から氷上の「Funny Girl」*6 にいたるまで、あらゆるステージショーのオーディションを受けたが、orchestral spotに行き着き、East Palo Altoの「Oklahoma!」*7 翻案学校で洗濯だらいを使って演奏するだけだった。 ギタリストのジャクソンは、大量に報道され苦い三角関係となったLiza Minelli*8Rita Moreno*9 との燃え上がるような会合の際、ズボンを下ろして再び捕まった。 ボーカリストのスパイク・スローソンはサンフランシスコのカラオケ店、「The Mint」*10 で繰り返し時間を過ごし、自身の声を乱用していた。 歌の代わりに「Good Fellas」*11「Glengarry Glen Ross」*12「Cats」*13 からシーンをそのまま再現しようと主張すると、彼は強制的に何度か外された。 見た感じ終わりの見えない騒動期間ではあるが、にもかかわらず最終的にそのピースをはめ合わせ、ギミギミズの新たな方向性を発見したのはベーシストのファット・マイクだった。 これらのスキャンダルが共通のつながりだって? 違う違う、ブロードウェイが、である。

 バンドメンバーは非常に多くの時間をひたすら1970年代当時のヒット曲を追求するのに費やしてきたため、彼らにはメンバー共通のミュージカル曲に対する情熱といったものが見えなくなっていた。 新たな活力を胸に、彼らはレコーディングスタジオに戻り、第二の天性と引き換えに、それらの情熱に芸術性を与えたが、その作品がたった今、自信を持ってベールを脱ぐこととなった。 Charles Atlas*14 にインスパイアされたかのようながっちりした体格で、スパイク・スローソンは自分の本当の姿を花開く女性歌手として明かした。 ゴリラの体に捕らえられたデリケートな歌姫としてね。 常に両くるぶしをまたぐニッカーズを着用しているジェイク・ジャクソンは、素早い指使いのミュージシャンであり、女性を扱うかのようにギターを演奏することで極甘のメロディを奏でることができる。 激しく、速く、そして愛情を込めながらね。 ファット・マイクの少しも太っていない情緒的なベースのプレイスタイルは、Rogers and Hammerstein*15 の最も美しい瞬間としか比較にならない(手始めに「Carousel」*16 を考えるとよいだろう)。 高さが足りず、今まで「Over the Rainbow」*17 (虹の彼方)を見ることができなかったジョーイ・ケイプだが、ギターの鋭さにより、彼は最も急勾配なタイムズスクエアのバルコニーよりも高い基台へと自らを導くのだ。 デイヴは独特のビートをこれらブロードウェイのスタンダードナンバーに蹴り入れ、今までのどんなRockette*18 でもできないくらい激しくしてしまう(言うまでもないが、ストッキングを履いた彼はかわいく見える、うえっ)。 今回は違う。 今回はオリジナルだ。 もはやインチキでもなけりゃ、目新しいものでもない。 それが本当のギミギミズである。 一度このコレクションをチェックしてみれば、なぜこれが本当の「My Favorite Things」*19 (私のお気に入り)の一つであるかが理解できるであろう。

 Christopher M. Dodge
 Professor of Musicology, M.D., O.D.D.

補足

*1 Fab=Fabulousの略。直訳すれば素晴らしい5人、ここではギミギミズのこと。一般にThe Fab Fourといえば、ビートルズを指す。

*2 アメリカのジャズ・ポップ歌手、フランク・シナトラが結成したシナトラ一家のこと。1950年代中期から60年代にかけ活躍していた。メンバーは、シナトラを中心に、ピーター・ローフォード、ディーン・マーチン、サミー・デイヴィス・ジュニア、ジョーイ・ビショップの5人。悪がきどもといった感じの意味もある。

*3 アンドリュー・ロイド=ウェバーとティム・ライスが手掛けたミュージカル。旧約聖書の有名な話、「ヨセフ物語」をミュージカル化したもの。

*4 1980年にイギリスで放送されていたテレビ番組。超常現象などを取り上げていた。アーサー・C・クラークはSF界の大御所。

*5 「オズの魔法使い」になぞって作られたミュージカル。ブラックジョーク満載で、さらに黒人しか出演していない。

*6 ブロードウェイで活躍した女優ファニー・ブライスの伝記ミュージカル。

*7 農村での恋の三角関係を陽気に描いたミュージカル。1943年初演。

*8 ライザ・ミネリ(1946-)。カリフォルニア州出身の女優・歌手。65年にトニー賞、72年に「キャバレー」でアカデミー主演女優賞を受賞。

*9 リタ・モレノ(1931-)。プエルトリコ出身の女優・ダンサー。「ウエスト・サイド物語」でアカデミー助演女優賞を受賞。

*10 公式サイト

*11 マフィア界で生きた男の実話を基に作られた映画。1990年作品。

*12 N.Y.の不動産業界を舞台に、セールスマンたちの姿を描いた映画。1992年作品。邦題は「摩天楼を夢みて」。

*13 アンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲担当の、世界的に有名なミュージカル。様々な猫たちが都会の片隅を舞台に、踊りと歌を繰り広げる。

*14 チャールズ・アトラス(1892-1972)。ボディビル通信講座の業者。「ダイナミック・テンション」という器具を使わない鍛錬方法を提唱し、当時有名になった。

*15 作曲家リチャード・ロジャースと作詞家オスカー・ハマースタイン2世のコンビ。代表作に「サウンド・オブ・ミュージック」がある。

*16 上記の二人によるミュージカル。邦題は「回転木馬」。

*17 「オズの魔法使い」からのナンバー。詳細はコチラ

*18 Radio City所属のダンスカンパニー。ラインダンスが見もの。クリスマスシーズンに行われるRadio City Christmas Spectacularには毎年多くの人々が訪れる。公式サイト

*19 「サウンド・オブ・ミュージック」からのナンバー。詳細はコチラ