11年前、私はMe First & The Gimme Gimmesとして知られる有望な若者グループのファースト・リリースに向けて、ライナーノーツを書くよう頼まれた。 彼らのデビュー・アルバムはHave A Ballと題され、この将来性ある新しいグループに対して賞賛の嵐が巻き起こった。 原石であったNeil Diamond*1 の才能を見出すように、この音楽バンドに対する私の愛着は同僚の間で分かち合うこととなった。 多くのロック評論家はこの若者達に惜しみない賞賛を与え、言うまでもなく、ジャーナリスト特有の使い古された陳腐な決まり文句がしつこく繰り返された。 マジメな話、「verve」*2 という言葉を実際に使ったことのある者はいるのだろうか。 では本題に入ろう。

　時代遅れの誇張やあくびを誘うシャレが氾濫するよりももっと不穏なのが、このアルバムの背後に潜む本当の話である。 私は最近何年もずっと身の安全を恐れて秘密にしてきた、隠れた真実により悩まされてきた。 この秘密は私をWitness Protection Program*3の深みへと追い込むものだ。 街の噂によると、Sammy The Bull*4 でさえ私の立場じゃなかったことを喜んだくらいである。 おわかりのよう、今まさにあなたが手にするアルバムこそが実際にオリジナルのHave A Ballとなるべきだったのだ。

　ギミギミズは選りすぐりのメンバーであった。 彼らが1970年代のあらゆるヒット曲をカバーする才能は無類のものであり、初めてスタジオに入った時にはヒットナンバーが渓流のように流れた。 彼らが望んでいないのは、オリジナルのアーティストからの報復だった。 このダイナミックなバンドに関して音楽業界で噂が飛び交い始めた頃、オリジナルの楽曲を創作したスーパースター達からものすごい反発があった。 結局はギミギミズのクールな「新しい」音が褒めたたえられる一方で、スーパースター達は「ダメになった」音を検討させられることとなった。

　そのうちに、70年代の非常に多くのスーパースター達がギミギミズを打ち負かしてやりたいと思うようになり、ファースト・アルバムはもっとピッタリなタイトルHave A Brawl（乱闘しましょう）となった。 そこそこ信用できる筋の噂によると、このバンドへの最初の攻撃はHall & Oates*5 から始まった。 「Rich Girl」を聞いた後、Oatesはギミギミズのドラマー、デイヴを追い詰め、いかつい口ひげのラウンドに強制参加させられたと伝えられている。 その晩には、ボーカルのスパイクがバーの外をふらついているところを二人の暴漢に襲われた。 一人はとても背が低く、もう一人は痩せてひょろ長く巻き毛だったその襲撃者達は、こう引用されている。 「俺達は『The Boxer』のお前らのバージョンを聞いて、今Simon & Gar-funk you up!」 最も恐ろしかったのはピアノ線で切断された馬の頭で、ギタリストのジョーイ・ケイプのベッドに残されていた。 Billy Joel*6 の指紋が付着したノートにはこのように綴られていた。 「Only The Good Die Young（若死にするのは善人だけ）、次はお前だ。」

　このアルバムによりギミギミズが殺されそうになっていたことは明らかだが、多大な労力がこの愛する作品に注ぎ込まれており、簡単に処分することはできなかった。 彼らはこのアルバムを保管し続けることに決めたが、秘密にし続ける必要があった。 私と彼らとは昔からの心を許せる友だったので、メンバーはこのオリジナル・アルバムの唯一存在するコピーを私に委ねた。 その代わりに、彼らは私に必要である限りの生活費を与えてくれた。 一粒の涙がほおを流れ落ち、人差し指をすぼめた唇に優しく当て、弱々しく震えた声でささやく、「元気でな」と。 彼らはさよならを言い、私は暗がりへと消えていった。

　このような非道な妨害にも関わらず、バンドは存続することを決めた。 彼らは早急にニュー・アルバムHave A Ballを制作し、今回はヒット曲をカバーするにあたり各アーティストと協調し合った。 いや、正確には殴り合いになっても簡単に蹴散らすことのできるアーティストの曲を選んだ。 ありがたいことに、この２枚目の「ヒット曲」のアルバムがボツになることはなかった。 ファット・マイクは「Danny's Song」をレコード化するために、Loggins and Messina*7 二人にグラノーラ*8とBirkenstock*9一生分を提供し、一人で彼らを説き伏せた。 また、ジェイク・ジャクソンがCoven*10 の悪魔のような乱交パーティーで着ていたシンプルなヤギのコスチュームは、「One Tin Soldier」の権利を得るには十分だった。 ギミギミズは新たな切り口でスターダムへの道を開いていったのだ。

　私が魚の頭やマレーシアのかまぼこ型の組み立て小屋で採れた米を食べながら独りの生活を送り続けている間、ギミギミズは前代未聞の成功を楽しんでいた。 数年が経過してようやく、彼らの名声やそれによる巨額の富は、ファースト・アルバムのオリジナル・バージョンを抑圧してきた救いようのないスター達全員にわいろを送るのに十分なほどとなった。 私は遂に厳しい亡命生活から解放され、このようなたった一つのアルバムのコピーが出回ることとなったのである。

　その結果、今になってようやくキッズ達はファースト・アルバムが本当にあるべきだった姿の音を聴くことができるようになった。 これこそがHave Another Ball、そうギミギミズによるオリジナルの「失われた」アルバムなのだ。 DATのテープをわざわざ東南アジアに船で密輸する価値があるだろうか？ 一度聴けば、答えは明白である。 Diana Ross*11 の「Mahogany」のパンク・バージョンがない世界なんてRoyのいないSiegfried*12 のようなものだし、そんな世界に住みたくはない。

　Chris Dodge, Professor of Musicologity
　Sun Valley, CA